- PATEK PHILIPPE Ref.3417のマグネットシールド
- VintagePATEK PHILIPPEファンにはよく知られていますが、Ref.3417Antimagneticでは他の時計と異なり、特殊な軟鉄製のインナーケーシングによって、その耐磁性を担保しています。Ref.3417は1958年頃ローンチされており、ムーブメントは当初Cal.12-400が使用されていました。その後、1960年頃からCal.27-400AMが登場すると、リプレイスされたと考えられています。
- 初期型ではケーシングのみで耐磁性を実現していたRef.3417ですが、主要パーツに非磁性素材を用いた画期的なCal.27-400AMがリリースされるとケーシングに加えてムーブメント自体の耐磁性も獲得し、PATEK PHILIPEとしては異色のリファレンスとして確立しました。
おそらくPATEK社としては、ROLEXのミルガウスやIWCのインジュニアのように、エンジニア向けのラインナップとして製造したものと思われます。
Cal.27-400AMはおよそ5,000個あまりが製造され、搭載したリファレンスはRef.96,Ref.2545,Ref.3417,Ref.3410,Ref.3420などがありますが、それぞれどのリファレンスがくらいの数が製造されたかは明らかになっていません。 - 今回のTopicsでは、これらいくつかあるリファレンスの中で、非常に凝った造りのインナーケーシングを持つRef.3417について掘り下げてみます。
まず、時計の内部構造がどうなっているかを見てみましょう。 - "特殊な内部構造"
オーバーホールのために分解されたところを撮影した画像をご覧下さい。 - "重厚なインナーケース"
左上の画像では、文字盤、ムーブメント本体、ケースバックの他、インナーケースの構造がよく分かる。材質はおそらく軟鉄製で、かなり重厚な造り込みがなされています。
右上の画像では、ムーブメント本体の各ブリッジが裏側まで美しく磨かれていることがわかります。
驚くべきは、各ブリッジにもムーブメント番号の下3桁が刻印されていて、製造過程から組み合わせが管理されていることがわかります。 (番号はマスクしています)
左:文字盤側インナーケース(表面) 右:文字盤側インナーケース(裏面) - 通常文字盤は、ムーブメントに差し込まれた後、ムーブメント側面からねじ込まれたビスで固定されています。
そのため、このインナーケースには文字盤の足が入る穴に対応した位置の側面にも穴が開けられています。(上記右画像)
つまりこのインナーケースは文字盤が取り付けられる内側に、ムーブメントをすっぽりと包むように取り付けられることを意味しています。
左:裏蓋側インナーケース(表) 右:裏蓋側インナーケース(裏)
左:組み上げられたムーブメント(文字盤側) 右:文字盤側に装着された文字盤側インナーケース
インナーケースは単独で固定されていませんから、文字盤を装着することでムーブメントと文字盤で挟み込みれている状態です。
上記の画像では12時位置が上方向、6時位置が下方向となっていて、スモールセコンドの穴が確認できます。- "巧みな設計"
それでは具体的にどの様に2つのインナーケースが組み合わされるのかを見てみます。
左:ケースバック側の切欠き 右:巻芯と位置決めのピン
左:文字盤装着、針付完了 右:ケーシング完了
- こうしてOH作業を順を追ってみる中で、インナーケースの構造に注目しると、Ref.3417が実に興味深いリファレンスであることが分かります。
通常Steelのモデルは素材の比重の関係で、貴金属のものに比べると軽量です。これは鉄の比重がおおよそ8:1なのに対し、金の比重は19:1もあるためです。もっとも18Kの場合は25%が他の金属になりますので多少軽量になります。
しかし、この3417はムーブメントを包む形で、重厚なインナーケースが存在するため非常に重量感のあるモデルとなっています。
使用されているCal.27-400AMは周囲に面取りが施され、薄型の時計にも搭載可能なよう配慮がなされていますが、この3417ではインナーケースを納める設計上、アウターケースには非常に厚みがあり、結果的に素晴らしいソリッド感を持っています。
これらのディティールは、装飾面からではなく、あくまで機能面から導かれたデザインであるという事実がこのリファレンスを一層魅力的なものにしています。
尚、Antimagneticが冠されたリファレンスは他にも少数存在しますが、ここでは割愛しています。 - 通常文字盤は、ムーブメントに差し込まれた後、ムーブメント側面からねじ込まれたビスで固定されています。

左:右上と左下がインナーケース | 右:各ブリッジ裏側にも下3桁のNo.が刻印 |